どのようなものが特別受益にあたりますか?
- カテゴリー:相続・遺言 コラム
- 2021.10.24
相続について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。
Q 生前贈与などが「特別受益」にあたり、遺産分割にあたって考慮されるとのことすが、そもそも、どのようなものが「特別受益」にあたるのでしょうか。
A 特別受益にあたるかについての明確な基準はなく、個別の案件ごとの判断となります。
<Point>
○遺贈は特別受益にあたる。
○生前贈与(婚姻若しくは養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与)は個別に判断する。
○特別受益の対象となるのは、原則として共同相続人に対する贈与等に限られる。
○特別受益であっても、被相続人が持戻免除の意思表示をしていると、「みなし相続財産」において考慮しなくてよい。
≪解説≫
1 特別受益とは
相続人が、生前贈与や遺贈等による特別の利益を受けており、その利益を相続分の前渡しとみることができる場合、このような利益を特別受益と言います。
特別受益を考慮しなければ相続人間で不公平を生みますから、遺産分割にあたって、特別受益は「みなし相続財産」として、相続分の算定の際に考慮されることになります。(⇒「相続分はどのように計算したらよいですか」参照)
2 特別受益性
民法では、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」(903条1項)として、特別受益者を規定しています。
特別受益についての条文はこれだけであり、特別受益にあたるか否かについて、具体的な判断基準が法律に詳細に規定されているわけではありません。
そこで、特別受益にあたるかは、裁判所において個別に判断されることになります。
その際、指標となるのが、共同相続人間の公平という観点です。
シンプルな条文ではありますが、条文の文言に沿って、解説いたします。
① 「遺贈」
遺贈は、目的を問わず全て特別受益となります。
また、「相続させる」旨の遺言により特定の財産を取得させる場合は、民法903条1項類推適用により、遺贈と同様、特別受益と同じ計算がなされます(広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定)。
② 「婚姻もしくは養子縁組のための贈与」
持参金や支度金は特別受益にあたりうるとされていますが、結納金や挙式費用については、性質上特別受益にあたらないという考え方があります。
特別受益にあたるかどうかは、贈与された金額、遺産総額との比較、他の共同相続人との均衡を考慮して、「遺産の前渡し」とみられるか否かで判断されると考えられています。
③ 「生計の資本としての贈与」
親元から独立する際の不動産の贈与、事業資金の贈与等、生計の基礎として役立つものについては、広く含まれます。
これも、贈与された金額、遺産総額との比較、他の共同相続人との均衡を考慮して、「遺産の前渡し」とみられるか否かで判断されると考えられています。
もっとも、親族間での贈与や生活費の援助が全て「遺産の前渡し」になるわけではありません。
「遺産の前渡し」として特別受益にあたるかどうかは、親族間の扶養的金銭援助を超えるものであるかどうかという基準で判断されると考えられています。
例えば、短期間で費消される少額の贈与は、親族間の扶養的金銭援助にすぎないことが多く、「生計の資本としての贈与」に該当するとは言い難いでしょう。
また、新築祝いや入学祝などであっても、親としての通常の援助の範囲内でなされた贈与は、通常は遺産の前渡しとみられるほどのものではなく、特別受益にはならないという考え方もありますので、注意が必要です。
なお、暦年贈与(年間110万円以下の贈与)については、相続税対策に利用されており、非課税の扱いを受けますが、遺産分割との関係では、単なる生前贈与として、特別受益に該当する可能性がありますので注意が必要です。
3 特別受益者の範囲
① 原則
特別受益者になるのは、原則として共同相続人に限られます。
② 相続人の配偶者や子に対する贈与
相続人の配偶者や子に対する贈与は、原則として特別受益にはなりません。
このことを利用して、相続人だけでなく、親族に贈与しておくことは、相続対策でよく用いられる手法です。
しかし、名義上は親族に対する贈与等であっても、真実あるいは実質的には共同相続人に対する贈与等であると言えるような場合には、例外的に特別受益に該当する場合があります。
具体的には、贈与の経緯や、贈与された物の価値や性質、相続人の受けている利益などを考慮して、実質的には相続人が直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、特別受益にあたると判断されます。
③ 被代襲者、代襲者に対する贈与
代襲相続(⇒「誰が法定相続人になるの?」参照)が発生している場合、被代襲者(死亡等した者)に対する贈与、代襲者(死亡等した者の子)に対する贈与はどのように考えるのでしょうか。
⑴ 被代襲者に対する贈与
相続財産の前渡しと言える場合には、原則として、特別受益にあたります。
ただし、その受益が一身専属的な利益である場合には、例外的に、特別受益にあたらないとされることがあります。
例えば、裁判例の中では、「特別高等教育を受けた費用」や「海外留学の費用」については、被代襲者に一身専属的であり、代襲者は直接的利益を何ら受けていないとして、特別受益性を否定するものがあります。
⑵ 代襲者に対する贈与
代襲者は、代襲原因(死亡、欠格、廃除)が発生する前は相続人の子の地位、代襲原因が発生した後は相続人本人の地位に立ちます。
そこで、代襲原因の発生する前後で、異なる扱いがなされています。
代襲原因が発生する前の贈与は、当時の相続人間の衡平を図るという趣旨からは、第三者に対する贈与として特別受益にあたらないとされています。
代襲原因が発生した後の贈与は、相続人に対する贈与として、特別受益にあたり得るとされています。
4 持戻免除の意思表示
被相続人は、持戻免除の意思表示をすることによって、生前贈与等が特別受益に該当する場合であっても、具体的相続分を算定する際に考慮されないようにすることができます。
持戻免除の意思表示の方法に制限はありませんが、相続対策を行う場合は遺言や文書に明記しておくことが通常です。
なお、持戻免除の意思が証拠上明らかでなくても、婚姻期間が通算で20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、居住の用に供する建物等を遺贈等したときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
ただし、民法改正によって新設された規定ですから、対象となる贈与等は、令和元年7月以降のものに限られます。
(弁護士:小原将裕)