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相続手続では何年前の生前贈与まで関係ありますか?

  • カテゴリー:相続・遺言 コラム
  • 2024.05.07

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相続について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。

Q 相続にあたって生前贈与は何年前まで遡って計算すればいいのか、いろいろあってわかりません。教えてください。

A 場面によって遡る範囲は異なります。まとめると次のとおりです。

<Point>
○遺産分割の場面では、相続分の算定にあたり特別受益として考慮され、共同相続人への生前贈与の持戻しに期間制限はありません。また、相続発生後10年間の主張制限があります。
○遺留分侵害額請求の場面では、遺留分の算定にあたり生前贈与した財産として考慮され、共同相続人への生前贈与の持戻しは原則として10年以内に限られます。また、権利行使は1年の消滅時効、10年の除斥期間があります。
○相続税申告の場面では、相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算されますが、そのうち3年以上前になされた部分については、100万円を控除します。
○暦年贈与は贈与の年度に贈与税が課せられないにとどまり、上記の算定には影響しません。


≪解説≫

1 生前贈与につい

 被相続人は独立した個人ですから、財産をどのように使うかは基本的には自由です。

 しかし、相続の場面では、公平・公正もまた求められますから、一定の修正が必要です。

 そこで、生前贈与や援助などは、一定の範囲で相続財産とみなして様々な計算を行うことになります。

 このような修正を「持戻し」といいますが、どの範囲で「持戻し」を行うか、相続の各種制度の適用場面によって異なります。 

 そこで、各種制度の適用場面ごとに、整理してみましょう。

 

2 遺産分割の場面

⑴ 特別受益の持戻し

 遺産分割の場面では、他の相続人に対する生前贈与は「特別受益」に該当すれば、相続財産への持戻しを行います。

  ※どのような生前贈与が「特別受益」に該当するか、また、持戻しを行った場合の詳細な計算方法は、過去のコラムをご参照ください。

 「特別受益」として持戻しの対象となる生前贈与の範囲については、特に期間制限はありません。

<例>
相続開始の15年前に1億円相当の不動産を生前贈与した、という場合、特別受益として持戻しの対象になる可能性があります。

 

⑵ 主張制限

 もっとも、このような特別受益の主張には、一定の場合に時間制限があります。

 それは、相続が開始した後10年を経過した後になされた遺産分割においては、特別受益の主張は認められないというものです。

 ※例外的に、①10年経過前か、②遺産分割を請求することができないやむを得ない事由があった場合において、その事由が消滅して6箇月経過前のいずれかに、家庭裁判所に遺産分割の請求をした場合はその限りではありません(民904の3)。

 このように、10年経過して初めて遺産分割協議を始めたという場合には、同じ生前贈与であっても、当事者が了承しない限り、特別受益の主張が認められなくなってしまいますので注意が必要です。

<例1>
生前贈与(相続から15年前)、遺産分割の請求(相続から3年後)
⇒特別受益にあたる可能性はある。主張制限の問題なし。

<例2>
生前贈与(相続から15年前)、遺産分割の請求(相続から15年後)
⇒主張制限のため特別受益は認められない。

 この主張制限は、令和3年民法改正によって新たに導入された制度です。

 経過措置として、①施行日前に相続が開始した遺産の分割についても適用する、②施行日(令和5年4月1日)から5年が経過する日または相続開始から10年が経過する日のいずれか遅い日までとする、とされています。

 したがって、本コラム投稿時点(令和6年5月)では、いずれも経過していませんから、速やかに遺産分割の請求を家庭裁判所に行えば、主張制限に抵触しないことになります。

 とはいえ、漫然と遺産分割を放置してしまうと、主張制限に抵触する可能性がありますので注意が必要です。

 

3 遺留分侵害額請求の場面

⑴ 算定の場面

 遺留分額を算定する前提として、基礎財産額を算定する必要があります。

 この基礎財産額の算定にあたって「生前贈与した財産」が考慮されます(民1043Ⅰ)。

 生前贈与は、原則として、第三者に対するものは相続開始前1年間(民1044Ⅰ前段)、相続人に対するものは相続開始前10年間(民1044Ⅲ,Ⅰ前段)になされたものが該当します。

 例外として、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与がなされた場合は、それよりも前になされた贈与も含まれます。

 

⑵ 権利行使の期間制限(消滅時効・除斥期間)

 遺留分侵害額請求は、消滅時効・除斥期間が設けられています。

 遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が、①相続の開始及び②対象の生前贈与等があったことを知った時から1年間の消滅時効(民1048前段)、10年間の除斥期間(民1048後段)が設けられています。

<例1>
遺留分侵害額請求が、相続発生を知ってから1年半後、かつ、生前贈与等を知ってから1年後になされたときは、消滅時効が完成しています。

<例2>
遺留分侵害額請求が、相続発生から半年後、かつ、生前贈与等を知ってから2年後になされたときは、消滅時効は完成しておらず、除斥期間も経過していません。

<例3>
遺留分侵害額請求が、相続発生から11年後、相続発生と生前贈与を知ってから半年後になされたときは、除斥期間が経過しています。

  

 相続税の場面

 相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算されます。ただし、そのうち3年以上前になされた部分については、100万円を控除します(相続税法19Ⅰ)。

 

5 暦年贈与の取扱い

 年間110万円以下の贈与は、暦年贈与といって、110万円の基礎控除額以下となるため、贈与税が課せられません。

 そのため、節税を目的として、しばしば生前対策として活用されます。

 しかし、あくまで贈与税が課せられないというにとどまり、それ以上に特別な法的効力が与えられるわけではありません。

 前述の遺産分割や遺留分、相続税の算定にあたっては、暦年贈与といえども算定の基礎に含まれることになるため、注意が必要です。

(弁護士:小原将裕)

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