寄与分は遺産分割でどのように考慮してもらえますか??
- カテゴリー:相続・遺言 コラム
- 2021.11.01
相続について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。
Q 被相続人の財産増加に寄与した場合、寄与分として遺産分割にあたって考慮されるとのことすが、「寄与分」はどのように考慮されますか。
A 寄与分は、原則として相続人が特別な寄与をしたことによって財産増加に貢献した場合に認められ、遺産分割にあたっては、その貢献分を、他の相続人に優先して相続財産から取得することができます。
<Point>
○寄与分に相当する金額は相続財産から優先して取得することができる。
○原則として相続人による寄与のみが考慮され、相続人以外の貢献は例外的に考慮される。
○なお、相続人以外の貢献は寄与料の請求というかたちで救済される余地がある。
○貢献のうち、一定の要件を満たす場合にのみ寄与分として認められる。
○寄与分は、寄与の類型ごとに要件や金額の算定方法が異なる。
≪解説≫
1 寄与分(民904条の2)とは
被相続人の財産の維持・形成に特別の寄与・貢献をした相続人がいる場合に、法定相続分に寄与に相当する額を加えた財産の取得を認めることで、相続人間の衡平を図る制度をいいます。
寄与分を考慮しなければ相続人間で不公平を生みますから、遺産分割にあたって、寄与分は「みなし相続財産」から差し引き、具体的相続分の金額を寄与した者が相続分の算定の際に考慮されることになります。(⇒「相続分はどのように計算したらよいですか」参照)
2 誰の寄与を主張できるか
相続人が寄与した場合に、寄与分を主張することができます。
相続人の配偶者や子については、原則として寄与分となりませんが、当該相続人の寄与と同視しうるような場合は、当該相続人の寄与行為として評価される場合があります。
なお、相続人の親族の寄与はあるものの、相続人の寄与と同視しうるとはいえない場合、寄与分は認められませんが、特別寄与料を請求することができる場合があります。これは、後に解説します。
3 寄与分が認められるための要件(共通)
被相続人に対するあらゆる貢献が寄与分として金銭評価されるわけではありません。
寄与分が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
①特別の寄与であること
②相続開始前までの行為であること
③対価を受けていないこと
④被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があること
⑤その他、類型ごとの考慮要素
それぞれについて、解説します。
⑴ 要件1 特別の寄与であること
夫婦間、親族間には扶助義務があります。
そのため、寄与分として考慮されるには、扶助として多くの人が通常行うと期待される程度を超える寄与を行ったことが必要です。
例えば、被相続人と同居していた、頻繁に被相続人宅を訪れ朝夕の食事を作っていた、生活費をあげていた、日用品を買ってあげた、介護施設や病院の送り迎えをしていた、、という程度ですと、親族間の扶助義務の範囲内といえ、特別の寄与にあたりません。
⑵ 要件2 相続開始前の行為であること
相続開始後の財産増加は、寄与分の対象にあたりません。
例えば、遺産不動産の維持管理、遺産整理、葬儀費用の提供は、「寄与分」として考慮されることはありません。
⑶ 要件3 対価を受けていないこと
無償(またはこれに近い状態)で寄与がなされていることが必要です。
直接的に対価を得ている場合のほか、別の利益を得ていた場合は無償と認められないことがあります。
例えば、寄与の代わりに相続人が被相続人の家屋や土地を無償使用しているとか、被相続人の収入で生活していた等の事情があると、対価を受けていないことにはならないことがあります。
⑷ 要件4 被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があること
寄与分は、財産の増加や、減少を食い止める等、相続財産に影響していることが必要です。
いかに献身的な寄与があり、それが被相続人の精神的な支えになっていたとしても、相続財産の維持・増加との影響がはっきりしなければ、寄与分として考慮されないことになります。
4ー1 寄与分の類型①:療養看護型
貢献のパターンに応じて、寄与分は類型化して考えられています。
類型ごとに、寄与分の成立要件が異なり、認められる金額の計算方法が異なります。
民法上は「被相続人の療養看護」と規定されています。
具体的には、相続人が、看護や介護が必要となった被相続人の身の回りの世話をすることによって、被相続人が本来支払わなければならなかった費用を免れた結果、被相続人の財産の維持に貢献したというような場合が該当します。
<要件について>
⑴ 要件1 療養看護の必要性
被相続人に療養や介護が必要であったことが、主張の前提となります。
例えば、介護の場合、介護認定の等級が「要介護2」以上であることが目安とされています。
⑵ 要件2 特別性
寄与行為が扶養義務の範囲を超えていることのほか、通常、第三者に有償で委託する行為(職業的な援助)であることが必要とされています。また、入院・施設入所している場合、原則として寄与分が認められません。
⑶ 要件3 継続性
寄与行為が比較的長期間継続していることが必要とされます。
明確な基準はありませんが,数か月程度では寄与分は認められないとされています。
⑷ 要件4 専従性
療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであることが必要です。
もっとも、「専業」や「専念」ということまでは要求されていません。
<算定方法>
寄与分の金額は次の計算式によって算出されます。
【寄与分額】 = 【報酬相当額】 × 【日数】 × 【裁量割合】
報酬相当額は介護報酬基準が参照されることが多く、裁量割合は0.5~0.8の中で設定されることが多いといえます。
4ー2 寄与分の類型②:家事従事型
民法上は「被相続人の事業に関する労務の提供」として規定されています。
相続人が、労務に見合った報酬を得ることなく、被相続人の事業に長期間従事した場合を指します。
家事従事という名称ですが、「被相続人の事業」に従事することが求めれています。いわゆる、家事手伝いを指すものではありません。
<要件>
⑴ 要件1 継続性
一時的な寄与では寄与分は認められません。
明確な基準はありませんが、概ね3~4年程度の寄与が必要とであるとされています。
⑵ 要件2 専従性
片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであることが必要とされます。
ただし、専業や専念ということが一律に要求されているわけではありません。
<算定方法>
次の二つの算定方法のうち、原則として①の方法で計算しますが、遺産の増加額が明確である場合は②を利用することが考えられます。
① 従事期間による算定方法
【寄与分額】 = 【寄与相続人の受けるべき相続開始時の年給額】 × 【(1-生活費控除割合)】 × 【寄与年数】
② 遺産増加額に対する貢献度による算定方法
【寄与分額】 = 【遺産の増加額】 × 【寄与相続人の貢献度割合】
4ー3 寄与分の類型③:金銭等出資型
民法上「被相続人の事業に関する財産上の給付」または「その他の方法」と定められています。
相続人が被相続人に対し財産や利益を提供する場合を指します。
例えば、被相続人の新規事業や借金返済のために金銭を贈与したり、自己所有の不動産を無償で使用させるといった場合が考えられます。
<算定方法>
寄与分額の算定方法は、給付した財産の価値を、現在の価値に置き換える方法をとります。
次のように、出資の態様によって異なります。
①金銭の贈与
【寄与分額】 = 【贈与金額】 × 【貨幣価値変動率】 × 【裁量割合】
②不動産取得のための金銭贈与
【寄与分額】 = 【相続開始時の不動産価額】 ×(【出資金額】÷【取得当時の不動産価格】)
③不動産の贈与
【寄与分額】 = 【相続開始時の価額】 × 【裁量割合】
④不動産の使用貸借
【寄与分額】 = 【相続開始時の賃料相当額】 × 【使用期間】 × 【裁量割合】
4ー4 寄与分の類型④:扶養型
相続人が、扶養義務の範囲を超えて被相続人の扶養料を負担していた場合、被相続人が出費を免れたことにより財産が維持されたということができます。
<算定方法>
【寄与分額】 = 【扶養のために負担した額】×(1-【寄与相続人の法定相続分割合】)
4ー5 寄与分の類型⑤:財産管理型
相続人が被相続人の財産を管理することで相続財産の維持・増加に貢献した場合、寄与分が認められることがあります。
<算定方法>
【寄与分額】 = 【相当な財産管理費用】 × 【裁量割合】
相当な財産管理費用の内容は寄与の態様によって変わります。
寄与態様を、①寄与者による費用負担とみる場合と、②財産管理行為とみる場合があります。
それぞれ、財産管理費用は次のように考えられます。
①費用負担とみる場合・・・・・当該費用額
②財産管理行為とみる場合・・・第三者に委託した場合の報酬額
5 特別寄与料請求
⑴ 特別寄与料請求とは
かつては、被相続人の親族が特別の寄与をした場合でも、相続人でなければ、原則として寄与分として考慮されませんでした。
しかし、相続法改正により、このような特別寄与者について、相続人に対して特別寄与料の支払いを請求することができるようになりました(民1050条)。
「特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。」
⑵ 誰が誰に請求することができるか
請求することができるのは、被相続人の親族です。
親族とは、被相続人から見て6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族です。
ただし、相続人は特別寄与料の請求をすることはできません。
相続放棄や欠格、廃除によって相続権を喪失した人も請求することができません。
請求は、相続人に対してすることができます。
複数の相続人がいる場合は、法定相続分に従って、各相続人が負担義務を負うことになります。
⑶ どのような場合に特別寄与料を請求することができるか
寄与分と同様に、以下の要件を満たしていることが必要です。
①特別の寄与であること
②相続開始前までの行為であること
③対価を受けていないこと
④被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があること
⑷ 特別寄与料はいくら請求することができるか
では、何を請求することができるのでしょうか。
法律には金額について具体的な定めはなく、民法は、最終的には「家庭裁判所は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めることができると定めています(1050条3項)。
まだ裁判例は集積されていませんが、基本的には、寄与分において考慮されていたのと同様の考え方が妥当すると考えられます。
⑸ いつまでに権利行使をしなければならないか
特別寄与稜は、原則として協議により定めることになります。
しかし、協議が整わない、協議ができない等の場合は、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
特別寄与者が家庭裁判所に処分を求めるにあたっては、相続の開始及び相続人を知ったときから6か月以内、かつ、相続開始時から1年以内に行わなければなりません。
(弁護士:小原将裕)