不貞と不倫・浮気との違いは?
- カテゴリー:離婚・不貞慰謝料
- 2021.12.15
離婚・男女問題(不貞)について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。
Q 不貞と不倫・浮気はどのような違いがありますか。
A 離婚原因にあたるか否かや、慰謝料請求が認められるかが異なります。
≪解説≫
1 どこからが不貞となるか
⑴ 不倫と浮気
不倫も浮気も、パートナー以外の異性との男女関係を意味します。
必ずしも区別は明確ではありませんが、不倫は当事者が既婚者である場合に限定して使うことが多いようです。
いずれも、法律用語ではありません。
また、男女関係は、性交渉を伴わないものについても、不倫や浮気にあたるものもあります。
不倫や浮気にあたる男女関係の境界は、時代や価値観によって移ろいゆくものですから、明確にすることは不可能です。
LINEのやり取りをして、一緒に食事に行ったりするといった行為も、その態様によっては、不倫といいうる可能性があります。
⑵ 不貞
これに対し、不貞は民法に定めのある、れっきとした法律用語です(民法770条1項1号)。
「不貞」とは、配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことを意味します(最高裁昭和48年11月15日判決)。
要するに、不貞は不倫のうち、性的関係を結ぶことに限定されているのです。
まとめると、
・浮気は未婚者同士による、パートナー以外との男女関係一般
・不倫は既婚者による、配偶者以外との男女関係一般
・不貞は既婚者による、配偶者以外との男女関係のうち、性的関係を結ぶもの
ということになります。
不貞や不倫・浮気の言葉は、無意識にではありますが、区別して使われていると思います。
しかし、法律的にどう違うのか、となると、理解している方は多くはないと思います。
法律的には、大きく分けて、①離婚原因となるか否か、②不法行為として慰謝料が認められるか否か、に整理することができます。
まずは異性愛を念頭に解説した後、同性愛についても解説します。
2 離婚原因となるか
婚姻関係が前提となりますから、不貞と不倫は離婚原因となるか、という問題となります。
民法770条1項では、法律上の離婚原因が定められています。
その第1号に「不貞」と規定されています。
「不貞」にあたる行為が認められれば、訴訟において離婚請求が認められることになります。
「不貞」は性的関係をもつことに限定されますから、性的関係に至らない不倫は「不貞」に該当しません。
「不貞」に該当しない場合であっても、離婚原因の第5号の「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」と認められれば、離婚請求が認められることになります。
不倫も、それが夫婦関係の破綻の要素といえるような場合には離婚原因となりえます。
もっとも、別居やDV以外の事由で離婚が認められているケースは、常軌を逸したものに限定されがちです。
また、「不貞」を別に規定していることは、民法が、男女関係の中でも不貞を別格に捉えていることが窺えます。
そのため、不倫があったからといって簡単に離婚原因として認められるわけではないと考えられます。
性的関係のない不倫にとどまる場合は、実際に夫婦関係が離婚同然に悪化していること、それに不倫が寄与していることが、説得的に説明できなければならないでしょう。
3 慰謝料が認められるか
不貞行為があった場合に慰謝料請求の問題になることは、いまや広く認識されています。
不倫や不貞がどのように慰謝料の問題となるか、ということを理解するためには、法律の条文について簡単に知っておく必要があります。
そもそも、慰謝料請求とは、損害賠償請求のうち、特に精神的苦痛についての損害賠償請求を指します。
損害賠償請求は、民法においては、「不法行為」(民法709条、710条)に基づいて行います。
ですから、慰謝料が認められるか否かは、「不法行為」が成立するか否か、と言い換えることができます。
「不法行為」が成立するかは、故意・過失により他人の権利利益を侵害しているか否か、という物差しで測られることになります。
このように、「不法行為」の成否は、は離婚原因の判断基準と同一ではありません。
そうすると、慰謝料請求ができるのは「不貞」に限られないとも言えそうです。
とはいえ、なんでも慰謝料請求を認めてしまっては、異性との問題ないかかわりまで取り上げられてしまいかねず、十分な社会生活を送ることもできません。
それでは、問題ある異性のかかわりとは、どのように考えればよいのでしょうか。
「不貞」については、原則として「不法行為」が成立し、ごく例外的な場合を除き、慰謝料請求が認められます。
なぜ「不貞」について「不法行為」が成立するかというと、それが「婚姻共同生活の維持」という権利利益を侵害しているから、と説明されます(最高裁平成8年3月26日判決)。
キスや性交類似行為、同棲なども「婚姻共同生活」を侵害する場合には「不貞」と同じく、「不法行為」が成立しうると理解されます。
他方で、単に面会しただけとか、私的なメール等のやりとりをしただけという程度では、「婚姻共同生活の維持」を侵害したとまではいえず、「不法行為」の成立を認めない裁判例があります。
いずれも程度問題であり、境界線を明確に引くことはできませんが、「不貞」に至らない不倫についても、悪質なものは慰謝料請求が認められうるということです。
ただし、慰謝料請求が認められうるからといって、十分な金額が認められるか、ということとは別問題ということに注意が必要です。
やはり「不貞」はそれ以外とは別格であり、認められる金額には大きな差があります。
「不貞」慰謝料ですら、十分な金額が認められない、と感じる方は少なくありません。
「不貞」以外の慰謝料はさらに低水準ですから、不十分だと考える方がずっと多いと想像できます。
なお、「婚姻共同生活の維持」という言葉からすると、法律婚に至らない未婚やの関係は含まれていないように読めます。
実際に、内縁関係などの婚姻関係と同視できるような場合を除き「不法行為」の成立を認めるのは困難でしょう。
そのため、婚姻関係のない浮気については、慰謝料請求は原則として認められないことになります。
不貞・不倫について慰謝料請求が認められるかについてまとめると、
①不貞は原則として慰謝料請求が認められる
②不倫は慰謝料請求が認められるとなる場合とそうでない場合がある
③不倫による慰謝料請求が認められても不貞の場合よりも金額が小さくなりがち
④浮気は原則として慰謝料請求が認められない
ということになります。
(弁護士:小原将裕)