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建物所有権のない配偶者に対する建物明渡請求は認められますか?

  • カテゴリー:離婚・不貞慰謝料
  • 2022.03.17

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離婚・男女問題(不貞)について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。

 

Q 建物所有権のない配偶者に対して建物の明渡しを請求した場合、認められますか?

A 離婚前は原則として認められませんが、離婚後であれば認められやすくなります。


≪解説≫

 所有権のない配偶者に対する明渡請求とは

 一般に、建物の所有者は、権原のない占有者に対して明渡請求を行うことができます。

 夫婦関係が悪化し、対立が激しくなると、このような理屈で、所有権のある配偶者が、所有権のない配偶者を自宅から追い出したい、と考えることがあります。

 このような場合に、所有権のない配偶者に対する建物明渡請求が認められるのか、ということが問題となります。

 ここでは、離婚や財産分与のそれぞれの時点ごとに明渡しが認められるか否かを解説します。

2 離婚前における明渡請求

 一言で「所有権のない配偶者を自宅から追い出したい」と言っても、次の例のように、事情は様々です。

(例1)夫婦であるAとBの関係が悪化し、Aが別居するに至った。BはA名義の家に住み続けていたが、Aは自宅を売却したいから、Bに明渡しを請求したい。

(例2)夫婦であるAがBに対し離婚を求めた。これは、Bによる度重なる暴力や家業への執拗な妨害行為等によるものである。Bは離婚を拒否しながらも、このような行為を続けA名義の家に居座っている。AはBに対し、離婚とともに明渡しを請求したい。

 建物明渡請求について、どのように考えればよいでしょうか。

 まず、建物明渡請求が認められるためには、所有権のない配偶者が権原なく占有していることが必要です。

 ところが、所有権のない配偶者は、こうした占有権原が手厚く認められています。

 というのも、所有名義のない配偶者が、他方配偶者の所有する建物を使用する場合、主に夫婦間の同居扶助協力義務(民法752条)に基づいた占有権原があり、使用貸借関係にあると解されているためです。

 この使用貸借関係は、破綻していても婚姻関係が続く限り継続して存在するとされ(東京地裁昭和31年7月16日判決)、特段の事情のない限り、婚姻の解消とともに当然に消滅するものと解されています(東京地裁昭和28年4月30日判決)。

 したがって、婚姻期間中に明渡請求をしても、所有権のない配偶者は使用貸借関係を主張することによって対抗することができる結果、原則として明渡しが認められないことになります。

 ただし、婚姻関係が存続している場合であっても、明渡請求を正当とすべき特段の事情がある場合は、例外的に明渡しが認められます。

 ここでいう「特段の事情」は、婚姻が実質的に破綻しているというだけでは足りず、例えば所有権のない配偶者による暴力や家業の妨害など、看過することのできない事情がある場合に限り認められています(徳島地裁昭和62年6月23日判決など)。

 ですから、例外があるといっても、明渡しが認められるケースは、ごく特殊な、異常性の強いケースに限られているといえます。

 なお、暴力などが原因の場合は、DV防止法による退去命令が認められれば、一時的にではありますが、目的を達成することができます。

 一時退去の状態がそのまま定着すれば、事実上、問題は解決する可能性があります。

3 離婚後、財産分与前における明渡請求

(例)夫婦であったAとBは、別居の末に離婚届を提出した。しかし、財産分与について取り決めがなされていなかったため、現在協議中である。BはA名義の家に住み続けていたが、Aは自宅に住みたいから、長引く財産分与に先立ちBに明渡しを請求したい。

 前述のとおり、明渡しが認められるかは、所有権のない配偶者に占有を正当化する権原があるか否かがまず問題となります。

 離婚届を提出している場合、婚姻関係の終了により、夫婦間の扶助協力義務や使用貸借関係は終了することになります。

 したがって、離婚後に改めて使用貸借の合意をしない限り、占有者はこれらを理由に明渡請求に対抗することができません。

 ただし、離婚後であっても財産分与時までは占有権原を認める見解が多く、財産分与時が一つの基準と言われてきました。

 このことを法律的に「権利の濫用」という枠組みをもって示した裁判例があります。

 婚姻中に建物を取得した場合、その建物は夫婦共有財産となり、財産分与によって帰属を確定しなければならない。夫婦財産の帰属は財産分与手続によって定めるべきであり、それまでは配偶者に潜在的な持分が認められ、これを害する明渡請求は権利の濫用に当たる、として、明渡請求を認めませんでした。※もっとも、賃料相当額の不当利得返還請求は認められています。(札幌地裁平成30年7月26日判決)。

 他方で、財産分与前であるからといって権利の濫用にあたるわけではないとして、明渡請求が認められた裁判例もあります。

 離婚後、財産分与の調停が係属中であっても、占有者に他に住居を用意することが可能であり、十分な収入を得ている一方、所有者はローンを負担しながら別途賃料を支払う経済的余裕はないこと、占有者が所有者に数々の嫌がらせをして住むことを困難にさせたことなどの事情を考慮し、権利の濫用には当たらない、として、明渡請求を認めました(東京地裁令和3年1月28日判決)。

 このように判断が分かれるのは、権利の濫用は、個々の事情を総合考慮することで判断されるからです。

 財産分与前であることは権利の濫用を基礎づける一事情となりますが、逆に、財産分与前であるからといって必ずしも権利の濫用にあたるわけではありません。

 裁判所がより妥当な結論と考えるか、ということを個別の案件ごとに考える余地を残しているといえます。

4 財産分与審判に伴う明渡命令

 これは純粋に裁判手続上の問題です。

 財産分与審判は、夫婦財産の帰属を決める手続であり、不動産については取得者を決めるにとどまります。

 もっとも、夫婦の一方が取得した不動産に、夫婦の他方が住んでいる場合、取得者を決めるだけでなく、更に明渡しも命じることができなければ十分に権利が実現できません。

 そこで、裁判所は、家事事件手続法154条2項4号にもとづき、財産分与に付随する処分として、明渡しを命じることができるか、という問題がありました。

 財産分与により、夫婦の一方から他方に不動産を分与(名義を移転)する場合、付随処分として明渡しを命じることができることは肯定されてきました。

 これに対し、不動産を分与(名義を移転)しない場合、つまり最初から占有者に所有名義がない場合、裁判所は明渡しを命じることができるか、明らかではありませんでした。

 この点について、最高裁は、必要があれば明渡しを命じることができると判断しました(最高裁令和2年8月6日決定)。

 この決定により、財産分与審判→建物明渡訴訟の手続を経る必要がなくなり、そのぶん早期に明渡しが実現されることになりました。

5 離婚後、財産分与後における明渡請求

(例)AとBは離婚届を出し、財産分与としてAが不動産を取得することで合意したが、明渡しについて合意しなかったため、所有権のない(元)配偶者Bが占有を続けている。AはBに対し明渡しを請求したい。

 この場合は、既に離婚によって夫婦協力義務や使用貸借関係は終了していますし、財産分与によって確定的に帰属が決定していますから権利の濫用とも言えません。

 したがって、元配偶者は占有する権原がないことになり、建物の明渡請求は認められます。また、明渡完了までの賃料相当額の不当利得返還請求も認められることになります。

6 親族からの明渡請求

 配偶者に対する建物明渡しに関連し、夫婦の親族からの明渡しを請求するケースも解説します。

(例)夫婦であるAとBが、Aの親Cから婚姻住居として建物を借りていた。AとBの諍いが何年も続き夫婦関係が破綻し、Aが家を出る形で別居した。CはBに対して、建物の明渡しを請求したい。

 夫婦の一方の親などが、夫婦の婚姻住居として利用するために、建物や土地を無償で使用させることは珍しくありませんが、このような場合でも明渡請求は認められるのでしょうか。

 前述のように、明渡請求が認められるためには、占有の権原がないことが必要です。

 親から使用を許されている場合の法律関係としては、夫婦とその家族が共同生活を営むための住居として使用するという使用貸借契約があると説明されます。

 そして、使用目的に従った使用収益が終了すると、使用貸借契約は終了します(民法597条2項)。

 そうすると、婚姻関係が破綻し、完全に別居しているような場合、もはや使用目的に従った使用収益は終了したといえます(東京地裁平成9年10月23日判決)。

 これに対し、占有者は様々な事情を挙げ、明渡請求は権利の濫用にあたると主張することがあり得ます。

 この判断は、配偶者同士の場合よりも微妙であり、双方の生活の実情、財産分与における申出内容や婚姻費用分担の実情など、幅広い事実が考慮されています。

 実際には明渡請求訴訟に発展するケースは稀であり、こうした問題は、当事者同士が離婚および財産分与の問題として解決が図られることが望ましいといえます。

(弁護士:小原将裕)

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