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離婚において企業年金はどのように取り扱われますか?

  • カテゴリー:離婚・不貞慰謝料
  • 2022.12.06

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離婚・男女問題(不貞)について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。

 

Q 離婚において企業年金はどのように取り扱われますか?

A 財産分与の対象となり、原則として現在の評価額をもって計算し、離婚時に分与されます。

<Point>
○企業年金は年金分割の対象とはならない
○退職金としての性質があり、財産分与の対象となる
○定年が遠い場合や運用により変動がありうる場合は原則として現在の評価額をもとに評価する
○原則として将来の分割払いでなく離婚時に一括払いの方法で分与する


≪解説≫

1 企業年金と

企業年金の概要

 企業年金とは、従業員の退職後、企業から一定期間、年金を支給される制度です。

 退職金は一時払いを原則としていますが、退職者が一時的に増加すると企業の経済的負担が増加します。退職金を分割払いとすることでこうした負担を緩和する一方、退職者にも一時金と比べて有利な金額が支給されるようにして、双方にとってメリットがあるように設計されたものです。

 この制度は法的に整備され、現在は、確定給付年金法および確定拠出年金法によって規定されています。

 ちなみに、浜松市や磐田市の大手メーカーでも、こうした企業年金の制度が導入されています。 

企業年金の種類

 企業年金の仕組みには、確定給付企業年金(DB)と、企業型確定拠出年金(DC)の2種類があります。

 確定給付企業年金は、給付額が予め定められているのが特徴です。退職後、年金または一時金の方法で給付されます。また、中途退職した場合は脱退一時金が支給されます。

 これに対し、企業型確定拠出年金は、拠出額は定められていますが、給付額は運用成績によって変わってくるのが特徴です。運用の指図は加入者が行います。給付方法は、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金の3種類があります。老齢給付金は、退職後、年金として支給されますが、規約により一時金として給付される場合もあります。中途退職等をしても移管手続はできますが、脱退することは事実上できません。

私的年金と公的年金

 企業年金は「年金」という名称がついています。企業年金は、年金制度の一つに位置づけられます。

 日本の年金制度は3階建に例えて説明されることが一般的です。具体的には、国民年金(1階)および厚生年金(2階)からなる「公的年金」に上乗せするかたちで加入するのが、3階部分の企業年金等の「私的年金」です。

 これら公的年金の対象者は、法律上、加入義務があります。

 これに対し、企業年金には個々の企業が設けた制度であり、法律上の加入義務はありません。

公的年金と離婚

 公的年金のうち、国民年金は原則として加入期間に応じて受給額が決まりますが、厚生年金はさらに標準報酬月額も受給額に影響します。簡単に言えば、加入者の収入が受給額に影響するということです。

 そのため、厚生年金の受給金額について夫婦間で差が生まれてしまいます。

 そこで、離婚に際しては、年金分割の仕組みが採られています。これにより、婚姻期間に応じた厚生年金の標準報酬の記録を分割し、受給額の差が調整されることになります。

私的年金と離婚

 これに対し、私的年金の場合、こうした年金分割の仕組みがありません。

 離婚にあたっては、年金分割ではなく、財産分与によって調整を行うことになります。

2 財産分与における取り扱い

 前置きが長くなりましたが、企業年金は、退職金の分割払いとして設計された制度です。そのため、企業年金は退職金と同様に考えることができます。

 退職金が、賃金の後払いとしての性質がありますから、企業年金についても、同様に考えます。

 賃金は労働の対価ですから、企業年金は夫婦の協力により築かれた財産とみなされ、財産分与の対象となります。

 もっとも、財産分与の対象となるのは、掛金が拠出された期間のうち、婚姻期間中に拠出された期間に相当する部分となります。婚姻期間前等に拠出された部分は、夫婦の協力を観念できないからです。

 以前は、退職金のように、支給の蓋然性がないとか、将来の不確定要素があるとか、運用の成果次第で受給額が確定するから評価が困難であるから財産分与の対象とすることは困難といった考え方もありました。そのような考え方に則った裁判例もあります。

 しかし、現在は、不確定要素は原則として考慮せず、また、定年が遠い場合や運用により変動がありうる場合でも、基準時の年金資産残高をもとに計算すれば足りることから、財産分与の対象とするのが実務上の取扱いといえます。

 また、企業年金は将来の請求権だから、将来の給付がなされたときに支払をすべきという考え方もありました。そのような考え方を示唆した裁判例もあります。

 しかし、財産分与は離婚にあたって夫婦財産を清算するものです。

 たとえ企業年金の給付が将来にわたるとしても、離婚時に他の財産と一緒に一括で分与をするというのが、裁判実務の原則といえます。

 このような考え方により、将来の支給を認める考え方と比較して、良くも悪くも、離婚時の清算がシンプルに行われることになります。

3 個人型確定拠出年金の場合

 企業年金に関連する話として、個人型確定拠出年金の取扱いの問題があります。

 確定拠出年金には、前述の「企業型確定拠出年金」と「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類があります。

 両者の違いは、掛金を企業が拠出するか、個人が拠出するか、という点です。

 企業型確定拠出年金は、給与に代えて企業が掛金を拠出しています。

 これに対し、個人型確定拠出年金の場合、加入の事情は様々であり、掛金も預金口座から引き落とされ、このような関係になるとは限りません。

 そのため、財産分与の対象となるかについて、退職金と同様に考えてよいか、疑問が生じます。

 もっとも、個人型確定拠出年金の場合は、資産運用により預金が変形したものと捉え、貯蓄性の保険や定期預金などと同様に考えることができますから、結論として財産分与の対象となります。

 そして、企業型確定拠出年金と同様、掛金が拠出された期間のうち婚姻期間中に拠出された期間に相当する部分が財産分与の対象となり、一括で財産分与を行うことになります。

(弁護士:小原将裕)

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