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マンションの賃借人が室内で自殺した場合、その相続人は責任を負いますか?

  • カテゴリー:相続・遺言
  • 2023.02.02

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相続について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。

Q マンションを借りている子が室内で自殺しました。相続人である親は、責任を追わなければなりませんか。また、連帯保証人になっている場合も同じですか。

A 自殺したことにより子は賃貸人に対して損害賠償義務を負い、相続が発生するため、本来は相続人が義務を承継します。しかし、相続放棄をして相続人でなくなることにより賠償義務を引き継がなくてよい可能性があります。連帯保証人になっている場合は、保証契約が有効であれば責任を追わなければなりません。。

<Point>
○居住者が自室で自殺した場合、賃借人は損害賠償義務を負う。
○自殺のあった部屋は心理的瑕疵のある物件となり、貸主に告知義務が発生する。
○原状回復費用や将来の賃料収入の減少につき、自殺した者は損害賠償義務を負う。
○法定相続人である親は相続放棄により、子の賠償義務を相続しないことができる。
○親名義で賃借人となっている場合、子とは別に、親自身が固有の損害賠償義務を負うため、相続放棄をしても責任を免れない。
○連帯保証人になっている場合も、親自身が固有の保証債務を負うため、相続放棄をしても責任を免れない。
○もっとも、連帯保証契約が無効である場合など、連帯保証債務を負わなくてよい可能性がある。


≪解説≫

1 マンションで自殺した場合の損害賠償責任について

⑴ 自殺しない義務がある?

そもそも、自殺することが、貸主に対する不法行為や契約違反にあたるのでしょうか。

裁判例では次のように説明して契約違反を認めています。

 

マンションの賃借人は「善管注意義務」といって、賃借物件について高度の注意義務を負っています。

この「善管注意義務」には、自然損耗や経年変化を超えて物理的に損傷しないようにすることはもとより、「心理的に嫌悪される事情」を生じさせて目的物の価値を低下させないようにする義務も含まれると解されます。

そして、自殺は、ここでいう「心理的に嫌悪される事情」に含まれるとされています。

 

このように、賃借人は、マンションにおいて自殺しない義務を負っていることになります。

なお、服薬自殺や飛び降り自殺など、自殺の態様は問いません。

 

したがって、賃借人がマンションで自殺をしてしまうと、賃貸借契約上の義務違反がありますので、賃貸人は賃借人に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

⑵ 賠償すべき損害とは?

損害賠償とは、文字どおり損害を賠償することです。

居住者が自殺したことによる賃貸人の損害とは、どのようなものでしょうか。

 

大まかにいうと、原状回復に要する費用のほか、将来の逸失利益が賠償の対象となります。

原状回復費用は、契約終了に伴う通常損耗まで含むものではなく、あくまで自殺に関連して特別に負担することになった費用に限られます。

 

将来の逸失利益は、事故物件について賃貸人に告知義務が課せられることにより、以前の賃料では借り手がつかなくなることによる損害です。

裁判例では、物件によりますが、賃料の1年~3年分程度の賃料相当額について、認定される傾向があります。

 

不動産価値の評価減については、原則として損害賠償の範囲に含まれないと考えられます。

しかし、実際に売りに出さている中であることを認識した状況の下で自殺が起こっている等の特段の事情があれば、例外的に賠償の範囲に含まれることがありえます。

もっとも、将来の賃料減額分や実際の売却額などを併せ考慮することになるため、損害額は慎重に決められることになります。

 

 賠償責任の相続について

賃借人が自殺した場合、賃借人の損害賠償義務は、相続人に承継されます。

したがって、そのままでは法定相続人が賠償義務を負うことになります。

多額の賠償義務がある一方で、目ぼしい資産がない場合、法定相続人は、家庭裁判所に相続放棄を申述することで、相続人としての地位を失うことができます。

その結果、亡くなった被相続人の資産も負債も相続しませんので、法定相続人であっても、損害賠償責任をはじめから負わないことになります。

 

 親名義で賃貸借契約を締結している場合

ところで、親の名義で賃貸借契約を締結していた場合は、居住者である子は賃借人ではありません。

そのため、子が自殺しても、「賃借人が自殺した場合」に該当しません。

しかし、居住者≠賃借人(名義人)の場合でも、通常、居住者は賃借人の履行補助者と解されます。

履行補助者による義務違反は、原則として契約者による義務違反と同視されます。

その結果、賃借人でない居住者が自殺した場合でも、「賃借人が自殺した場合」と同様の賠償責任が賃借人に発生することになります。

このようなケースでは、賃借人である親が契約違反をしていることになるため、賃借人である親が直接に賃貸人に対して賠償責任を負うことになります。

つまり、賠償義務は子から相続するものではありません。

そのため、相続放棄をしたとしても、賃借人である親は賠償義務を免れることにはなりません。

 連帯保証人の責任

賃貸借契約を締結する際、多くの場合、連帯保証人を立てることが求められます。

賃借人が債務を履行しない場合、連帯保証人も、同内容の保証債務を履行しなければなりません。

もっとも、連帯保証人の保証債務は、一定の範囲で制限されることがあります。

しかし、賃貸借契約においては、損害賠償についての定めが設けられていることが通常であり、自殺による損害賠償についてもこれに含めることは予見可能といえます。

そのため、自殺による損害賠償義務について保証人の責任が制限されることは困難といえます。

 

連帯保証人の責任は、賃借人や居住者の責任を相続するわけではありません。

したがって、親が連帯保証人になっている場合、相続放棄をしたとしても、連帯保証人としての保証債務を履行する責任を免れることはできません。

 

 保証債務を免れる場合とは

⑴ 保証債務が消滅している場合、そもそも発生していない場合

主債務である損害賠償債務について弁済がなされたり、担保権が実行されたりと、何らかの理由によって損害賠償債務が消滅することがあります。

このような場合、保証債務もまた消滅しますから、連帯保証人も義務を免れることになります。

また、連帯保証人は、連帯保証契約を締結することによってはじめてその地位に就きます。

この連帯保証契約が無効ならば、初めから保証債務を負うことはありません。

例えば、成年被後見人が後見開始決定後に連帯保証契約を締結し、後見人が取り消した場合などは、契約が無効になります。

⑵ 極度額の定めのない個人根保証契約である場合

賃貸借契約の保証人は、賃貸借契約から生じる不特定の債務を保証しています。

このように、一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証のことを、根保証(継続的保証)といいます。

個人が保証人となる根保証については、民法改正によってルールが変わりました。

具体的には、個人根保証の場合、保証人は極度額の限度で責任を負うことになります(民465の2①)が、極度額の定めがなければ個人根保証契約は無効となります(民465の2②)。

極度額は、「○○円」などと金額を明瞭に定めなければならず、書面に記載されることが必要です。

このような極度額に関するルールが適用されるのは、令和2年4月1日以降に締結された個人根保証契約が対象です。

また、これ以前に締結された個人根保証契約であっても、令和2年4月1日以降、賃貸借契約とは別に合意更新された場合は、やはり極度額に関するルールが適用されると解されます。

それ以外の場合は、極度額に関するルールの適用対象外であるため、極度額の定めがなかったとしても無効になるわけではありませんから注意が必要です。

(弁護士:小原将裕)

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