債務超過の会社について、破産を申し立てる資金がない場合はどうすればよいですか?
- カテゴリー:債務整理(法人・事業者) コラム
- 2023.11.28
債務整理について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。
Q 債務超過の会社について、破産を申し立てる資金がない場合はどうすればよいですか?また、資金がなく破産を申し立てることができない場合、どのような手続をとらなければなりませんか?
A まずは弁護士の指導の下、資金を捻出する努力をします。資金確保の可能性がない場合、法人破産はあきらめざるを得ません。その場合でも、税務署や年金事務所などに手続をとる必要があります。手続は受け身ではなく、主体的に行ってください。解散登記をしただけでは不十分です。
<Point>
○法人破産の申立には弁護士費用、裁判所予納金が必要。特に後者は高額になりがちであり、備えをしておく必要がある。
○債権回収や会社の資産を現金化する等して申立費用を用立てることが考えられる。留意点が多いため、弁護士の指導のもとで慎重に行う必要がある。
○予納金等が確保できない場合は破産申立をすることができない。
○「休眠会社」は税務上の取扱いにとどまる。「解散」をしても清算は終了しない。法律的には会社はそのまま存続し、権利義務や経営者の責任も消滅しない。
○事業を停止しながら、やむを得ず破産申立をしない場合でも、税務署や年金事務所等に必要な手続をとる必要がある。
○積極的に案内がなされるとは限らない。必ず自分で必要な手続を行い、確認すること。
○法人を放置して代表者が破産する場合、予納金が通常よりも高額になる可能性が高く、法人破産と手間が変わらない。なるべく法人とともに破産を申し立てるのが望ましい。
≪解説≫
1 破産申立費用がない場合
⑴ 申立費用を捻出する工夫
破産には、弁護士費用や裁判所予納金などの多額の申立費用が必要となります。
ところが、現預金がなく、直ちに申立費用を用意することが難しいケースは珍しくありません。
そのような場合は、保険契約を解約したり、売掛金を回収したりして資金を確保することがあります。
第三者から援助を受けることができるのであれば、それも検討します。
⑵ 費用を捻出するにあたっての注意点
大きな金額を捻出しようとして、資産を売却することを考えつく方は多いと思います。
もっとも、資産の現金化は、本来は破産手続内で公正なルールに則って行う必要があります。
そのため、申立前に財産を処分する場合は、これに準じた公正な取扱いがなされていなければなりません。
預貯金や保険、有価証券などの金融資産であれば、払い戻すことのできる金額が予め契約で明確に決まっているため、その金額で払戻しができれば公正といえることが多いでしょう。
これに対し、モノを売却・現金化する場合、必ずしも時価が明確ではありません。
不用意に現金化をしてしまうと、破産手続において様々な不利益が発生します。
場合によっては破産申立を進められなくなってしまうかもしれません。
特に、不動産や在庫商品、機械類、備品などの有形資産を売却する場合に、このようなリスクが発生しやすいので注意が必要です。
現金化をする場合は、必ず弁護士に相談したうえで、きちんと指導を受けてから行うようにしてください。
2 それでも破産申立費用を捻出することができない場合
⑴ 破産の方針をとることはできない
現預金を捻出することができず、弁護士費用や予納金を賄うことができない場合、破産の申立てを依頼することができません。
仮に、申立をすることができたとしても、裁判所が指定する予納金が納付されない限り、破産開始決定は出ません。
そうなると、もはや法人破産の方針をとることはできません。
⑵ 特別清算の利用もまた難がある
もっとも、赤字会社を清算するために、厳密には、特別清算という手続を利用することができる可能性がゼロというわけではありません。
しかし、特別清算では、裁判所への申立ては行いますが、破産手続でいうところの破産管財人は選任されず、取締役が清算人として手続を行う必要があります。
また、事実上、申立てまでに多数の債権者との協議をまとめる必要があります。
これらができないならば破産と同等の予納金の納付が求められてしまい、結局は資金の問題に直面します。
いずれも困難ということであれば、特別清算を利用することはできません
3 「休眠」や「解散」による解決?
⑴ 破産しないということ
破産の方針をとることができない場合、法的には会社として存続することになります。
権利義務や契約上の地位が消滅するわけではありませんし、役員を含め法的な責任もそのままです。
取引先は債権を回収できないばかりか、不良債権をすぐに貸倒損失に計上することもできず、不利益を増大させてしまいます。
そのため、破産をしないということは、やむを得ない事情があるとしても、決して褒められたものではありません。
ところで、わざわざ破産をするために頑張らなくても、休眠や解散によって会社を終えれば解決するかのように説明されることがあります。
しかし、それは本当でしょうか。
⑵ 休眠会社とすること
多くの場合、休眠会社という言葉は、会社法上の「休眠会社」のことではなく、税務署に休業の届出を行った会社を指して使うことが多いようです。
破産や通常清算を「廃業」と呼び、対応させて説明することもあります。
手軽であり、コストもほとんどかかりませんから、安易に進める専門家も珍しくありません。
たしかに、この手続をすれば、税務会計上の取扱いは変わります。
しかし、法的に会社として存続することに変わりはありません。
繰り返しになりますが、法人としての権利義務が消滅しませんし法的な責任もそのままです。
破産手続が始まらない以上、債権者からの取立てが続く可能性があります。
取引先の不利益を増大させますし、役員の責任も免れません。
休眠させたまま経営者が死亡すれば、相続人に迷惑がかかります。
そのため、休眠の手続きを取れば大丈夫というのでは、税務会計の観点からの説明にとどまり、片手落ちといえることが珍しくないといえます。
そもそも、休眠とは、将来再開の予定がある場合に用いられることが念頭にあります。
例えば、経営者の病気等の理由で一時的に事業を停止している場合などに行われます。
赤字会社の出口戦略として、休眠会社にすればよい、と考えるのは適切な解決ではありません。
経営者の責任として、破産をするための努力を最後までするべきでしょう。
⑶ 会社を解散すること
破産手続をしなくても、解散登記をすれば廃業が完了すると考える方がいらっしゃいます。しかし、これは間違いです。
これは、休眠会社を放置して、「みなし解散」とされる場合も同様です。
法的には、解散とは、消滅を意味せず、清算手続が始まることを意味します。
解散登記をすれば、以降は清算会社として存続します。
事業が停止しているだけで、法的な権利義務や責任はほぼ承継されます。
清算手続が終わって初めて「清算結了」となり、法人は消滅し、清算結了の登記をします。
ところが、債務超過の会社の場合、通常清算の手続を終えることができませんから、法人格は消滅しません。
この場合、何らかの方法で債務超過を解消して通常清算をするか、特別清算や自己破産を行う必要があります。
⑷ 小括
このように、休眠や解散をしただけでは解決にはならないことになります。
法的に会社を消滅させるためには、黒字であれば通常清算、赤字であれば自己破産や特別清算をする努力をすべきです。
また、これらの手続のために必要な金銭を残しておくよう、備えを怠らないことが大切です。
4 会社を破産させることができない場合にすべき手続等
⑴ 事業停止にともなう諸手続
会社を破産させることができない場合、法人としてそのまま残さざるを得ません。
第三者との権利義務関係や役員の責任など、未解決の課題を残したまま、やむを得ず、事業停止に伴う手続を行います。
主な手続として、次のようなものがあります。
・異動届出書(いわゆる休業届)を税務署、都道府県税事務所、市区町村役場にそれぞれ提出します。
・消費税の納税義務者ではなくなった旨の届出を税務署に行います。
・給与支払事務所の廃止届出を税務署に行います。
・健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届、資格喪失届を年金事務所に提出します。
・雇用保険適用事業所廃止届、資格喪失届をハローワークに提出します。
・(労働保険)確定保険料申告書を労働局または労働基準監督署に提出します。
・許認可の廃止手続や加盟団体の脱退手続などがあります。
・賃借物件を立ち退いた場合は、各種住所変更の手続をとることも必要です。
そのほかにも、各種手続が必要な場合があります。
これらは、形式上は何らかの届出・申請の変更・脱退などが大半です。
会社ごとに状況は千差万別ですから、漏れがあったとしても、誰かが速やかに指摘してくれるわけではありません。
遅れたことによるペナルティがあったとしても、自己責任となります。
そのため、自ら主体的に、漏れのないよう手続を進める必要があります。
会社に保管する各種申請等書類を網羅的にチェックしていくことで漏れを防止することができると考えられます。
5 代表者のみの破産をすることはできるのか
会社を破産させない場合でも、代表者だけでも破産をしたいという場合があります。
これが不可能というわけではありませんが、多くの場合、申立費用や予納金が高額になってしまいます。
また、申立書類として、会社に関する資料の提出を求められます。
そのため、会社と一緒に破産を申し立てた場合と比べて、トータルの負担がそれほど小さくならないということも珍しくありません。
できるだけ、代表者は会社とともに破産を申し立てるようにしたほうが望ましいといえます。
(弁護士:小原将裕)