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株主に相続があったとき、株式の分散を防ぐ方法はありますか?

  • カテゴリー:相続・遺言 コラム
  • 2022.01.20

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相続について、素朴な疑問から専門的な論点まで、弁護士が解説いたします。

Q 株主に相続が発生した場合、株式がその相続人に分散することを防ぐ方法はありますか?

A 相続株式の売渡請求制度を導入すれば、相続人に対して、会社に株式を売り渡すよう請求することができるようになります。

<Point>
○相続株式の売渡制度を導入することで、相続人に対し、会社に株式の売渡請求が可能に。
○経営に関心のない相続人等への株式の分散防止を図ることができる。

○導入の手続、行使のための手続は厳格に決められており、事前に十分な準備が必要。
○少数株主が大株主を排除する「相続クーデター」の可能性があるため対策が必要。


≪解説≫

1 相続株式の売渡請求とは

⑴ 概要 

 相続株式の売渡請求制度とは、会社が、相続その他の一般承継により自社株を取得した者に対し、当該自社株を会社に売り渡すことを請求できる制度です(会社法174条以下)。

 なお、179条以下の支配株主による株式売渡請求とは別の制度です。

⑵ 制度趣旨

 株式は遺産分割の対象となります。株主が死亡すれば、その相続人が株式を取得することになります。

 ところが、相続人は必ずしも会社に関心があったり、会社にとって望ましい人物であるとは限りません。そのような人物に株式が移れば、会社経営に支障を生じかねません。

 非公開会社は特に、大株主への経営集中が望ましいと言えますから、株式が分散してしまうこと自体が望ましくありません。

 相続株式の売渡請求制度を活用することで、後継者の経営基盤を安定化させるほか、株式の分散を防止することができます。

2 売渡請求制度の導入のために必要な手続

⑴ 売渡請求制度を導入するためには、譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことができる旨の定款の定めが必要です(会社法174条)。会社の現行の定款にそのような定めがない場合は、定款変更が必要です。定款変更のためには、株主総会の特別決議を経る必要があります。

⑵ なお、一般承継が発生した後で上記のような定めを定款に追加した場合でも、売渡請求が有効になるか、ということが問題となりえます。
 この点につき、様々な考えがあるところですが、裁判例には、定款変更前の相続であっても、会社法174条が特に制限を設けていないから売渡請求を有効としたものがあります(東京地裁平成18年12月19日決定)。

3 売渡請求権行使のための条件

 売渡請求をすることができるのは、定款の定めがあるだけでなく、以下のすべてを満たす場合に限られます。

① 譲渡制限株式が対象であること

 売渡を請求することができるのは、譲渡制限株式に限ります。譲渡制限のついていない株式については、売渡請求をすることができません。

② 一般承継であること

 株式が移転する原因として、一般承継である必要があります。一般承継とは、権利義務を包括して移転することを意味します。一般承継の例として、主として相続(民法896条)が想定されていますが、吸収合併などもあります。

 一般承継の対となる概念が特定承継です。特定承継による移転の場合、売渡請求の対象となりません。特定承継には、贈与、売買、遺贈などがあります。ちなみに、譲渡制限株式を特定承継させるには株主総会による承認が必要ですから、好ましくない者への株式分散を心配する必要はありません。

③ 財源規制を満たしていること

 売渡請求をしたとしても、剰余金配当可能額を上回る金額で買い取ることはできません(会社法461条1項5号、7号)。

④ 会社が一般承継を知ってから1年以内であること

 会社は相続人に対し、会社が相続の事実を知ってから1年以内に売渡請求をしなければなりません。後述のとおり採るべき手続は多く、思ったよりも時間がありません。会社としては、できるだけ早く準備に着手する必要があります。

 ちなみに、1年間の起算点は、相続の場合は、会社が「相続の事実」を知ったときです。「相続によって特定の相続人が株式を取得したこと」を知ったときではありませんから、注意が必要です。ただし、包括遺贈のように、会社が対象者を容易に知ることができない特段の事情がある場合は、別途考慮が必要であると解されています(東京地裁平成18年12月19日決定、東京高裁平成19年8月16日決定)。

4 相続の場合における売渡請求の流れ

① 相続人の調査

 会社が株主の相続発生を知ったら、まずはその相続人が誰になるのか、調査をする必要があります。相続人は、戸籍を取得して確認することになります。

 相続人の中で連絡が取りやすい人がいる場合は、協力を仰ぎ、遺言の有無や遺産分割の進捗などを確認します。

② 株主総会の特別決議を経ること

 売渡請求にあたっては、請求の都度、株主総会の特別決議が必要です(会社法175条1項、309条2項3号)。株主総会においては、売渡請求をする株式の数と、相手方の氏名又は名称を決議する必要があります。このとき、買取価格については必ずしも明示したり決議したりする必要はありません。

 売渡請求のための株主総会において、相続人は株主総会で議決権を行使することができません(会社法175条2項)ので、注意が必要です。

③ 売渡請求の通知

 会社は相続人に対し、株式数を明示して売渡請求の通知を行います(会社法176条1項)。期間に関係しますから、通常は日付の入った文書によって通知を行います。

 請求の対象となる相続人は、遺産分割の段階によって変わります。
ⅰ 遺産分割が完了している場合や、遺言によって取得者が指定されている場合、株式を取得した相続人に対して通知を行います。
ⅱ 遺産分割が完了していない場合、株式は相続人全員による準共有という状態にあります。相続放棄などによって相続関係は変動する可能性はありますが、会社としては、原則として法定相続人全員に対して通知を送ることになります。

④ 売渡金額についての協議

 売渡請求を受けた相続人は、売渡自体を拒否することはできません。しかし、売渡金額は会社と相続人との協議によって決定しますから(会社法177条1項)、協議がまとまらなければ売渡しは完了しません。
 相続人が適切に価格の判断をすることができるとは限りませんし、必要な情報は会社側に偏在しています。また、いったん通知をすると協議のための時間はほとんどありません。会社としては、売渡金額を明示するとともに、その金額がなぜ妥当であるかを示すことが望ましいでしょう。

 協議が整わない場合は、売渡請求から20日以内に、裁判所に売買価格決定の申立てをする必要があります(会社法177条2項)。

5 相続クーデターとその予防

⑴ 本制度は、少数株主への株式分散を防止するための制度なのですが、これが大株主の相続の場面になると、その後継者を排除するという全く逆の機能を果たしてしまいます。

 すなわち、売渡請求をするためには株主総会特別決議が必要ですが、相続人はこの決議において議決権を有していません。大株主の相続人が議決権を行使することができなくなる結果、少数株主であっても3分の2の議決権を握ってしまう可能性があるのです。
 そうなると、大株主の株式は会社に買い取られて経営から排除されてしまい、他方で少数株主が大株主になって経営の実権を握ってしまいます。これが「相続クーデター」と呼ばれる所以です。

⑵ もちろん、売渡請求には財源規制があり、剰余金配当可能額を上回る金額で買い取ることはできませんから、会社として、そもそも大株主の株式を全て取得する条件を満たしていない場合が多いといえます。とはいえ、売渡請求制度を導入するにあたっては、このようなリスクを十分に吟味しておく必要があります。

⑶ 大株主としては、このような問題を回避するために、少数株主について議決権制限種類株式として少数株主の議決権を制限したり、法人に保有させることで一般承継を生じさせない方法を採ることが考えられます。
 あるいは、生前贈与や特定遺贈などの特定承継を活用して一般承継とならないようにしておけば、売渡請求の対象となりません。
 売渡制度の導入にあたっては、後継者に円滑に株式が引き継がれるよう、このような生前対策とセットで行うことが賢明といえます。

(弁護士:小原将裕)

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